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【インタビュー】宇宙葬を手がけるスタートアップ『エリジウム・スペース』

アストロプレナー編集部では、宇宙葬を今までよりも安く提供し、より多くの人にサービスを届けようとしているスタートアップ、エリジウム・スペースCEOのトーマス氏とアドバイザーのベンジャミン氏にお会いし、じっくりお話を伺ってきた。

 

Image credit: astropreneur.net

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―はじめにエリジウム・スペースの事業内容について教えて下さい―

 

私達のサービスは宇宙葬です。とはいえ宇宙葬は新しいものではなく、既に15年以上行われてきました。 しかしこれまでは一回あたり50万円ほどかかっていました。そこで私達は20万円以下(1,990USD)というより手頃な価格でこの宇宙葬を実現します。 ちょうど、アメリカでも8月初旬にサービスを開始しました。そもそも、なぜ私達が宇宙葬という事業を始めようと思ったかというと、今日、葬送に求めるものが宗教的なものから、故人の名誉や誇りといったものに移行しつつあるためです。 多くの人にとって宇宙葬はとても真新しい経験だということはわかっています。それでも死後美しい宇宙空間に行くことは人間にとって意義深いことではないでしょうか。 そう思った私達は、宇宙葬を誰もが利用できるようにするべく、アメリカと日本で事業を始めました。

 

―事業を国際展開する上で、なぜ二番目の国として日本を選んだのですか?―

 

日本市場はアメリカと同じくらい魅力的だからです。 アメリカでは一年間に250万人の人が亡くなっています。そのうちの40%が火葬です。つまり、100万人がサービスの潜在顧客となります。(宇宙葬では重さを軽くするため遺灰の一部を宇宙に持っていくスタイルをとる。そのため火葬以外の葬儀方法の場合はサービスの対象外となる)その点、日本では毎年100万人の人が亡くなり、ほぼ全ての人が火葬です。 とはいえ、日本には日本独自の葬儀文化があるので、日本市場への参入はとても繊細な問題でした。しかし、日本から「宇宙葬のサービスを日本でもやって欲しい」とのリクエストを貰ったため、こうして始めることにしました。

 

―日本で宇宙葬を広めるために、どのような戦略を考えていますか?―

 

宇宙葬というサービスはとても真新しいものなので、それがどういうものなのか人々にわかってもらう必要があります。 そこで私達はとてもシンプルでわかりやすいアプリをリリースしました。App StoreやGoogle Playを通じて今すぐ手に入れることができます。そして、葬儀会社のパートナーを見つけることにも注力しています。私達は宇宙葬を既存の葬儀形態とうまくフィットさせることが可能だと信じています。故人の一族が故人を弔うため、棺桶や花といったものを使うのと同じように宇宙葬を利用して欲しいと思っています。

 

―宇宙葬が日本人の葬送の文化にどのような影響をもたらすと考えていますか?―

 

日本人の宗教観においては仏教というものが大きく影響していると思います。仏教では死後の世界というものに対して既に一定の世界観があります。クリスチャンよりも遺体を大事にするように思われますが、その一方、日本文化では散骨がとても自然に行われています。 実際、私が調査したところ、日本人の中に最も早く宇宙葬を考えた一人がいます。一条真也という作家で、1980年代にとても素晴らしい本を書いています。 彼は日本の葬儀の未来に対してビジョンを抱いていました。死というものを地上から天へと解き放つ時期が来た、と。 死に対する価値観を変えていくという面で、私は彼に共感し「よしやろう」と思いました。人は死後、宇宙や月に行き、意義深く詩的な最期を迎えるということです。

 

―宇宙葬の分野には一社セレスティスという競合がいますが、どのような戦略を持っていますか? エリジウム・スペースのサービスとの違いはなんでしょうか?―

 

まず、セレスティス社はとても良い仕事をしていると思います。既に彼らがサービスをしていたお陰で、私達はとても多くのことを学ばせてもらいました。しかし、私は彼らが対象としている市場は本当の市場ではなく、実際はもっと大きな市場だと思っています。

セレスティスの価格は5000ドルと高いので、私達はこれを1990ドルというリーズナブルな価格でサービスを始めました。 長期的なビジョンでは棺桶や献花くらいの手頃な価格で提供したいと考えています。これがセレスティスよりエリジウムが優れている1つ目の理由です。2つ目の理由は、マーケティングの問題です。セレスティスは宇宙飛行士や宇宙旅行者など、ごく一部の宇宙好きを対象にしています。

しかし、私達はよりマスマーケットでも宇宙葬が受け入れられると考えてマーケティングを行っています。 宇宙は美しく、とても意味のある場所です。私達は、家族で数々の星を見て、天の川を眺め、思いを馳せます。そんなシーンで亡くなった大切な人が流れ星になる。これが私達の考える宇宙葬です。ロケットの打ち上げ等よりもずっと普遍的な体験ではないでしょうか。 まとめると、セレスティス社はとても良い仕事をしていますが、私達は違う戦略を考えていて、宇宙葬は一部の宇宙好きだけでなく、マスマーケットでも通用すると信じているということです。

 

―世界的には小型衛星がトレンドになっていますが、なぜリモートセンシングなどではなく宇宙葬のサービスを選んだのですか?―

 

既に話したことが主になりますが、スカイボックス・イメージングやプラネット・ラブズは小型衛星を使って宇宙から画像を撮るリモートセンシング事業を立ち上げています。そこにはきちんとした市場があり、とても興味深いですし、彼らはとても優秀で良い仕事をしています。

私は、宇宙はより利用可能になっていくと思いますが、それは科学技術の発展によるものだけでなく、とても多くの人々に宇宙に意識を向けさせてきた何かが大きく貢献すると思っています。ヴァージン・ギャラクティックによる宇宙旅行事業もそうです。 宇宙は普遍的な美しさを持っています。それは私達の心を捉えて決して離しません。

そこで、私にも何かできることがあるはずだと考えました。とはいえ、もう既に誰かがやっているリモートセンシングの事業に参入するのは、ビジネス上良い戦略とは言えません。だから宇宙葬にしました。とてもいいビジョンを描けたし、私にとても合っていたので。

 

Image credit: astropreneur.net

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―どうしてそれまでの仕事を辞めて、起業家になったのですか?―

 

まず、起業は私にとって自然なものであったということが言えます。以前ヨーロッパで働いていた時、独立業務請負人(Independent Contractor)となりました。またエリジウム・スペースを起業する前、アメリカでデネブ・エアロスペースという宇宙分野のコンサルティング会社を起業しています。なので、元々独立志向でしたし、いつも起業のためにいくつかアイデアを持っていました。 私にとってエリジウム・スペースを始めたことはとても自然なことだったわけです。

 

―(ベンジャミン氏から)NASAという良い職場を離れ、こんなクレイジーなプロジェクトに取り組むなんて、心配はないのでしょうか?(笑)―

 

確かに、言われてみると全然心配を感じてません(笑)それは私がとても合理性を大事にする人間だからだと思います。私は宇宙葬を考えた時にうまくいくと計算しました。だからきっとできます。

 

―(ベンジャミン氏から)つまり、あなたにとってはこの事業はまったくクレイジーなものではなくて、潜在的リスクはあまり高くないと思っているわけですね。―

 

もちろん!

 

(インタビュアーから)それは勇気づけられますね。

 

ははは(笑)大事なのは恐れないこと!ただ前に進むこと!

 

Image credit: astropreneur.net

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―ベンジャミンさん、あなたはITビジネスに長く関わっていますが、どうしてトーマスさんを手伝うことにしたのですか?―

 

いくつかの理由がありますね。まず私達はかれこれ30年以上の付き合いになります。 その後私はアジアのスタートアップに多く関わり、ノウハウを蓄積しました。一方トーマスはNASAでハッブル宇宙望遠鏡やホイヘンス、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの多くのプロジェクトに関わっています。私は彼がとても優秀だと知っていましたので、様々な議論をする中で、彼が宇宙事業を立ち上げると知った時、とてもいいマッチングだと思いました。

彼は宇宙についてとても詳しく、私はスタートアップのノウハウを持っています。そして、私達はアメリカと日本の市場規模が大きいと知りました。そして、これは筋が通っていると。 未だ宇宙はとても制限された空間です。そんな中この事業は極めて僅かな宇宙分野におけるBtoCのビジネスとなります。

ヴァージン・ギャラクティックもBtoCじゃないかと言う人もいるかもしれませんが、彼らの宇宙船のシートは高すぎて、1%の人に向けたBtoCビジネスに留まっています。しかし、私達のビジネスは残りの99%の人に向けたビジネスです。これはとても面白いと思いませんか。私はトーマスという人間を知っていて、信頼出来ます。そして、スキル的に良いマッチングがある。数字上も筋が通っている。 マーケティング的にも何とかなりそうだ。ではやろう、というわけです。

 

エリジウム・スペース ホームページ

 

(インタビューを終えて)今回のインタビューを通してとても印象的だったのは、ベンジャミン氏が「こんなクレイジーなプロジェクト始めて怖くないのか」と聞いた時、トーマス氏が何食わぬ顔で「もちろん」と答えていたことだ。私が唖然としていると「恐れず、ただ前に進むこと」とメッセージをもらい、とても勇気付けられた。インタビューをしながら気づいたことだが、トーマス氏とベンジャミン氏は本当に仲が良い。ITスタートアップの人間と、力のある宇宙業界エンジニアのコラボ。私はこの形に大きな夢を見、自分の方向性を再確認することとなった。

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